『食の豆々知識』 Vol.29 鰹

“江戸っ子の初物食い”という言葉がありますが、江戸っ子は、何でも人よりも早く、手に入れて食べることを自慢にしていました。そのため、江戸時代の初物の物価はかなり高かったそうです。中でも“女房を質に入れても初鰹”という言葉もあるくらい、初鰹の人気は高く、記録によると当時、初鰹1本が3両もしています。3両というと米が3俵買えたというのですから、ん?現在で考えると20万近くですか??でも、女房を質にって…。
今回は、戻り鰹がおいしい季節になったことですし、鰹の話。

● 堅い魚、カツオ
カツオは漢字で「鰹」と書くように、「堅(い)魚」から「かつお」と呼ばれるようになったとか。
堅い魚といいながら、実はとても身割れしやすく、痛みやすい魚です。それ故に、大昔(鎌倉時代以前)は刺身で食べるよりも、堅くなるまで干してから食べていたため、堅い魚と呼ばれていたようです。
鰹節の歴史はこの辺から始まっているのですね。でも、最近は、ほとんど、堅い魚(削っていない鰹節)をみかけなくなりましたが。
サバ科に属し、仲間にはヒラソウダ、マルソウダ、ハガツオ、スマなどがいますが、一般にカツオと呼ばれているのは、マガツオのこと。

● 眠らずに泳ぐ?
カツオは、暖かい海を好み、群れをなして餌のイワシなどを追いながら、回遊しています。泳ぐ早さは、毎秒6~7m、最高27mにも達するといいますから、時速100km!!早いですね~。しかも、休むことなく、眠らずに(一説には寝ながら泳ぐともいわれていますが)死ぬまで泳ぎ続けます。
これだけ、早く泳いでいるのですから、その泳ぎを急に止めると体温が急激に上昇し、カツオ自身の体温で身焼けをおこすため、吊り上げるとすぐに氷水に入れなくてはならないそうです。
ところで、カツオ独特の縞模様(ちなみに縦縞といいます)は、泳いでいる時はなく、死ぬと浮かび上がってくるもので、死んですぐが1番はっきりとし、徐々に薄くなっていきます。ですから、縞模様がはっきりしているものは、鮮度のいい証拠です。

● 初鰹と戻り鰹、どっちが旨い?
カツオは南の海で生まれ、2歳になった頃、北上を始めます。イワシなどを食べてちょっと太り始めた初夏、関東近海などで取れたものが「初ガツオ」、更に北上し、北海道沖でイワシを食べ続け、太って産卵のために南下し、晩夏から初秋にかけて、三陸沖などで取れたものを「戻りガツオ」といいます。
最近では、「トロカツオ」などと呼ばれ、脂ののった戻りガツオの方が人気が高いようですが、繊細な香りと味の初ガツオも捨てがたく、ま、ようするに好みですね。
頑固な江戸前の寿司屋では、初ガツオしか握らないとか。本当かどうかはしりませんが、やはり、江戸っ子は、初ガツオは捨てられない、ということです。
ところで、カツオは回遊魚ですが、一部、地付きの魚として、残っているものもあるようで、餌にも恵まれ、脂がたっぷりとのって大変美味と言われています。かなり昔に、高知で真夏にとろけるような、旨いカツオを頂いたことがありましたが、それだったのでしょうか…。今は、ほとんど記憶になく…(残念)。

● たたきと刺身の違い
カツオの一般的な料理法としては、高知の郷土料理、たたき(土佐作り)でしょう。
たたきとは、皮目を下にして強火で焼き、身の方をさっとあぶって氷水にとって冷ました(皮の周りの脂分が溶けるため、すぐに食べるのならば、氷水にさらさない方が実はおいしい)もので、本格的には、わらを燃やしていぶし焼きにします。これをねぎ、しょうが、にんにくなどの薬味をまぶし、ポン酢や土佐酢をかけて、包丁の背で叩いてなじませます(ここから、たたきと呼ばれるようなったとか)。
鮮度の良いものは、熟成が足りず、旨みが足りません。そこで、叩くことで、イノシン酸を生成させることができます。また、薬味や酢は、血生臭さや、殺菌力を高めます。たたきは、まさに、理にかなった、調理法なのです。
しかし、痛みが早いといっても、鮮度がいいものが簡単に手に入るようになった最近では、刺身も人気で、特に、脂ののった戻りガツオなどは、とろけるような味わいをそのまま生かすため、たたきにせずにお造りや寿司ネタによく使われます。
これも、好みの問題でしょうが、どちらにしろ、皮とその近くの身が1番おいしいため、お刺身にしても、皮目だけに火を入れた焼霜や銀皮作りなどで、ぜひ皮も一緒に食べて頂きたいものです。

 さて、最後に一口アドバイス。カツオのアラを煮るときには、水を加えないこと。煮汁に水を加えると、どうしても生臭くなります。
 秋は美味しい旬のものがいっぱい。食べつくそう、なんて考えるから、食欲の秋なんて言葉ができたのでしょうか(笑)。

 ところで、江戸っ子なうちは、昔から、“初物を食べると長生きする”と、よく初物を食べていました。いったいいくつまで、生きるられるのでしょうか…。